テニスクラブのContrast 〜コーチ室での対比。〜

さて、二人のお嬢さんが最初のレッスンを終えたところでちょいと、
プリンステニスクラブのコーチ室なんぞを覗いてみよう。

「やあ、お疲れ様。」

コーチ室に戻ってきた跡部氏と千石氏は、物腰の柔らかい声に迎えられた。

女性のように、としか形容のしようのない端正な顔立ちの青年が柔和な笑みをたたえている。

お二方の同僚である、不二周助氏だ。
その外見と、物腰の柔らかさで女性陣に抜群の人気を誇っているメインコーチである。

テニスに関しては学生の頃から天才と謳われた御仁だが、
その味覚も常人を超越していることで有名だ。

「どうだった、新しい生徒さんは?」
「いやぁ、なかなかいい子だよ☆」
「…最悪だ。」

不二氏が問いかけると、同時に正反対の答えが返ってきた。

「それがさー、聞いてよ、不二くーん。」

まず口を開いたのは例の千石氏である。

「うちんとこに来た子さ、ちゃんって言うんだけど、可愛い子なんだよ☆」
「へぇ?」
「でもさー、俺すっごく警戒されちゃっててさー、ちょっと悲しいんだよねぇ。
今日も思いっきり逃げられちゃって…ありゃキツかったなー。」
「…ご自分が蒔いた種じゃないですか。」

もーちょっと打ち解けてくれてもいいのにさー、とブツブツ言いながら
自分の席につく千石氏の後ろでサブコーチの鳳氏が歩きながら呟く。

が、自分のことに忙しい千石氏はまるっきり聞いていない。

「ハッ、馬鹿馬鹿しい。」

千石氏の隣、サラブレッドの置物(ちなみに金色だったりする)が
ドンと鎮座する机に座って跡部氏が馬鹿にしたように言った。

「女にうつつ抜かしてる暇があるんならさっさと指導に励めってんだ。」
「あー、ひどいなあ、跡部クーン。それに、君に言われるなんて心外だな。」
「ああ?」

跡部氏は眉をひそめて右隣を睨む。

「どーゆー意味だ、千石。」
「だって俺聞いたよ〜、跡部クンとこの子、えーと確かちゃんだっけ?
メッチャクチャ扱い悪いんだって?いかんぞー、女の子は大事にしないと。」

千石氏は人好きのする笑顔でのたまう。
跡部氏はたちまちの内に機嫌を損ねた。

「ああ?冗談じゃねーぞ。何が悲しくてこの俺様が
器量は悪ィ、飲み込みは悪ィ、要領は悪ィ、の3拍子揃ってて
話にならねぇ女のガキなんぞに親切にしてやらなきゃなんねーんだ。
大体、誰だあんなバカを俺様のところに寄こしやがったのは…」

「いいじゃない、俺なんか好意持ってるのに嫌われちゃってるんだよ?うっうっ。」

不満をぶちまける跡部氏の横で千石氏はラッキーアイテム(本人曰く)の
招き猫を置いてる机に突っ伏して泣きべそをかいた。

それをずっと見ていた不二氏は苦笑を禁じえない。

「何だか、二人とも大変そうだね。」
「そーだよ、だってちゃん、警戒心丸出しだもん。」
はよりによってドジマヌケのガキだしな。」
「いや、そうじゃなくて…」

不二氏はますます苦笑しながら、次のようにのたまった。

「生徒の方が大変だなって。」

ちゅどーん

誰が聞いても明らかだと思うが、それは爆弾発言である。
しかも、

「ダメだよ、不二。そんなホントのこと言っちゃ。」

不二氏の隣に席を構える2枚目系の男前コーチ、佐伯虎次郎氏
―ついでにいうと不二氏の幼馴染―が更に油を注ぐ。

「おい、テメーら。」
「ひどいなぁ、不二クンと佐伯クンまで。」

跡部、千石両氏が抗議の声を上げる。

「いい加減にしてくれませんか。」

ややイライラしたような丁寧語は千石氏の右隣から聞こえた。
パソコンの前でウェイヴのかかった髪をクリクリと弄くる癖のある彼は観月はじめ氏である。

「さっきからくだらないことをワーワーと。
こっちは大事なデータを整理しているところなんですよ。」
「アーン?てめぇの訳のわかんねー数字の羅列なんざ知るかよ。」
「なっ!跡部君、それは聞き捨てなりませんね。」

結局、この後跡部氏と観月氏はワーワーと言い合って
メインコーチの机の方はえらく騒がしくなる。

「跡部、観月、いい加減にしないか。」

とうとう見かねたのか、1人茶をすすっていた銀縁眼鏡のコーチが言った。
口数が少なく、厳しいので有名な手塚国光氏である。

「そーそー、ケンカはよくないよね☆」

きっちり口を挟む千石氏。

「千石、お前もだ。」
「あらら。」

手塚氏に言われて、千石氏はガックリと机に突っ伏した。



一方、

「全く、たるんどる!!」

コーチ室のサブコーチ側の机では厳格な声が上がっていた。

プリンステニスクラブのコーチ陣の中でずば抜けて
スパルタ度が高いので評判の真田 弦一郎氏である。

そのスパルタ度は蜘蛛の巣グラフで表せば
何と、円をぶっちぎってしまうくらいとんでもないのだ。

「仮にもメインコーチたるものが年端も行かぬ娘に現を抜かすとは何事だ!
大体、千石、お前という奴は昔から…」
「うっうっ、ちゃーん…(シクシク)」

………………………………………。

「あの人、全然聞いてないっスよ。」
「なっ…?!」

ピシッ

たまたま側で炭酸飲料の缶を握って立っていた越前リョーマ
―プリンステニスクラブ最年少サブコーチ―に言われて
真田氏は気の毒にも石化した。

「わっ、めっずらしー。真田が石化しちゃったよー。」

赤っぽい外ハネ髪の青年が囁き声を漏らす。

ノリのよさと愛想のよさでこれまた女性に大人気のサブコーチ、菊丸英二氏である。

「ウププッ、おもしろいこともあるもんっスねー。」

モシャモシャという音を立てながら隣の席でツンツン頭の青年
―名を桃城武という―が忍び笑いをする。

「何か言ったか。」
『いーえっ!!何にもっ!!』

真田氏に睨まれて菊丸氏と桃城氏は同時に叫んだ。

当然、内心二人とも『危ねー。』と思ったのは言うまでもない。

「それにしても、」

ハァとため息をつきながら鳳氏が呟いた。

「今日の千石さんは見てるこっちも恥ずかしかったなぁ。」
「全くだぜっ!」

神尾氏もその向かいの席で顔に手を当ててうんざりした顔をする。

「中学ん時からああだったけど、全然なおっちゃいねーんだもんよ。」
「でも神尾君もあの口癖何とかしないと…」
「おい…お前、時々失礼だな。」
「いや、お前らはまだええで。」

口を挟んだのは当然忍足氏である。

「こっちなんかあの跡部やで?もーあの嬢ちゃんのことボロクソやったからなー、
見てる方が辛うて(つろうて)辛うて…。なぁ、乾?」
「俺としてはさんが跡部に爆弾発言をしそうになった回数が興味深いところだな。
気弱な割になかなかやるよ。」
「…アホやろ、自分。言うとくけど、間違ってもあのけったいな(変な)
飲みモンだけは飲ますなや。また救急車呼ぶんはかなん(敵わない)からな。」

「みんな、本当に色々大変なんだな…。」

鳳氏をはじめとする同僚達の愚痴にしみじみと言うのは大石 秀一郎氏だ。

ちょっと卵を連想させる(ちょっとどころではない、という説もあるが)
ヘアスタイルと優しく親切な指導で定評がある。
実際、彼の気遣いは群を抜いているといえよう。

ちなみに菊丸氏とは学生の頃、全国クラスのダブルスペアを組んでた人物だったりする。

「そない言うんやったら、大石、お前、俺の代わりに跡部と仕事したってくれや。
その方がの嬢ちゃんも報われるで。」
「ハハハ…そりゃタイヘン。」
「…何乾いた笑いしながら逃げてんねん。」

忍足氏は思わず、平手突っ込みを入れる。

「忍足達の気持ちもわかるが、」

一連の同僚達の様子を見ていた橘 桔平氏が静かに言った。

神尾 アキラ氏のテニス部の先輩であり、
中学の頃はカリスマ的存在感で部員達を引っ張っていた名キャプテンだった
これまた凄い御仁である。

額の真ん中に黒子、という特徴的な外見を持つ為、
しょっちゅう影で大仏呼ばわりされているのだが
それはご本人の与り知らぬところである。

「何をどう言ったって、お互いが補い合って仕事をするしかないだろう。
メインコーチに問題がある分はせめてサブの方が穴埋めをしてやらないとな。」
「橘、お前、今サラっと問題発言せんかったか?」
「何のことだ?」

忍足氏の言葉に、橘氏は本当に自覚がないらしく首を傾げる。

「橘さん…」

かつての己の先輩のボケっぷりに斜め前の席で神尾氏が頭を抱える。

「どいつもこいつもたるんどる!!」

真田氏がまた声を上げたが、誰もその言葉に耳を傾けることはなかった。


…対立するメインコーチ陣、仲良く(?)愚痴をこぼしあうサブコーチ陣。

どーやらプリンステニスクラブはコーチからして対比の塊のようである。

果たして、さんとさんはこれからどーなるのか。

それはこれからのお楽しみである。

To be continued.

作者の後書き(戯言とも言う)

つー訳で、プリンステニスクラブ夢連載第3話はコーチ室からお送りしました。
(己はレポーターか)

いやー、これは結構サクサクいけましたな。
書いてる間自分でも楽しいのなんのって(笑)

これはドリームなのか、と聞かれたら微妙ですが。
いや、ちゃんと名前変換設けてるからドリームだ。
(今回ばかりは断言)

ただ忍足氏の関西弁を書く時、いまだに自分が普段使っている神戸弁に
してしまいそうになるのがちょっと大変。
言語ってむずかしいなぁ。(←相変わらず忍足氏は大阪弁だと勝手に思い込んでる奴)

あ、ちなみに跡部氏の机の上にサラブレッドの置物、
というナイスな案は友人のものであります。

そろそろ本格的になってきそうです。出来れば次もよろしく。


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